堤真一主演「良い子はみんなご褒美がもらえる」 オーケストラも芝居、異色作

堤真一主演「良い子はみんなご褒美がもらえる」

■世界文化賞・トム・ストッパード作品

英現代演劇を代表する劇作家で、高松宮殿下記念世界文化賞受賞者、トム・ストッパード(81)は、膨大な知識と言葉遊びを駆使した戯曲が魅力だ。「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」や脚本を担当した米映画「恋に落ちたシェイクスピア」(1998年)などで日本でもファンが多いが、中でも異色作の「良い子はみんなご褒美(ほうび)がもらえる」が上演される。35人編成のオーケストラと俳優が競演しながら、ミュージカルではないというユニークな舞台だ。(飯塚友子)

◆「こんな舞台初めて」

「この作品がミュージカルだったら、出演していません」と同作に主演する俳優、堤真一(54)は強調する。舞台経験豊富な堤をして「こんな舞台は初めて」と漏らす作品。日本でも堤主演の今舞台が、本邦初演となる。

物語は、旧ソ連と思われる独裁国家の精神科病院で展開。誹謗(ひぼう)罪で捕まった政治犯(堤)と、オケを率いていると信じる妄想男(橋本良亮)との会話から、回想と妄想が入り交じって再現される。観客の目の前にいるオケは、妄想男の頭の中の存在、という設定だ。

「僕には音楽は“聞こえない”設定です。オケは単なるBGMではなく、演奏するフリをするなど芝居に参加する。非常に独特な世界観の芝居なんです」

◆妥協知らぬ政治犯

芝居進行につれ、妄想男のあまりに自由な発想と、政治犯の生きる窮屈な社会があぶり出され、「自由とは何か」という命題が浮かび上がる。政治犯は、不当逮捕された友人を救う活動で特殊な精神科病院に入れられ、当局の調べにハンストで対抗する妥協を知らない男だ。

「たまたま中国で弾圧された宗教団体の男性を追うドキュメンタリー番組を見たら、学者のような華奢(きゃしゃ)な人だった。拷問で気が狂えば楽になるのに、そうなれなかった人を演じる難しさを感じます」

◆相互監視の窮屈さ

チェコ出身のユダヤ系家庭に生まれたストッパードは、1939年、ナチスの迫害を逃れシンガポールに移住し、さらに英国に移った。そんな来歴もあり、人権問題にも関心を寄せ、今作を含め、表現の自由への弾圧、抑圧的な政権を扱った作品も少なくない。

日本では政治犯など、遠い世界の話にも思えるが、堤は今作で描かれる窮屈な社会を、特別とは感じないと話す。「今の日本は一見、自由ですが、社会全体が監視し合う窮屈さを感じる。不祥事やネット投稿がたたかれますが、五人組が1億人組に広がったような不自由さもある」。政治犯が自由のため格闘する姿を、ストッパードは皮肉を込め描く。「この作品は古くない。今の時代の不自由さが浮かび上がると思う」

平成28年に出演した「アルカディア」以来のストッパード作品。迷い、反発、正義、抑圧…と、さまざまな感情が潜む膨大なせりふに、体重を減らしながら全力で取り組む。

20日~5月7日、TBS赤坂ACTシアター(東京都港区)。03・3477・5858。

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